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日本酒ビギナーでも楽しめる「カネナカ」:女将が教える味わい方ガイド
日本酒というと、少しハードルの高い大人の飲み物というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
「種類が多くて違いがわからない」「どうやって飲むのが正解なの?」
――そんな疑問を持つ初心者の方にこそ、飲んでいただきたいのが、中島屋酒造場の〈カネナカ〉シリーズです。
「華やかな香りと甘くてフルーティーな飲みやすい日本酒」だけが日本酒ではありません。
この蔵に嫁いだ当初、私自身も日本酒については初心者でした。
そんな私が、主人や蔵人たちから学び、日々実感してきたカネナカの魅力
――”生酛造り”による力強い酸味と旨み、そして飲む人それぞれの好みに寄り添う奥深さを、今日はお伝えさせていただきます。
カネナカとは?伝統と挑戦が生んだ”生酛”の酒
まず、カネナカという名は中島屋酒造場の屋号「カネナカ」から由来します。
「地元に根ざした誠実な酒造りを貫く」という蔵の理念を象徴し、創業以来受け継ぐ手仕事が詰まったシリーズです。
明治以降「速醸酛」が主流となった現代ですが、十一代目の中村佑治郎が「生酛」を復活させました。
古式の製法に現代的な感性を融合し、季節や米の個性を大切にしたラインナップを展開しています。

カネナカの最大の特徴「生酛造り」
生酛は江戸時代から続く伝統的な酒母造りの方法です。
明治末に速醸ができるまで、日本酒はほぼすべて生酛で造られていました。
「生酛」と「速醸酛」の違いは、一言でいえば「乳酸をどう得るか」と「そこから生まれる味わい・手間・時間」の差です。
なぜ乳酸が必要かというと、酒母の中を酸性にして雑菌を抑え、酵母だけを元気に増やすためです。
生酛と速醸酛の違いは、「この乳酸を”自然に育てるか””あらかじめ加えるか”」にあります。
生酛では、蔵に棲む天然の乳酸菌など、さまざまな微生物が関わり、乳酸が自然に増えることで酒母タンク内が酸性になります。
実際に仕込み途中の生酛の酒母タンクに近づくと、酸っぱいような、漬物のような香りがします。
順調に乳酸がつくられている証拠なのだそうです。温度管理や衛生管理など高度な技術が必要で、失敗のリスクも高くなります。
自然の力と向き合いながら繊細な作業工程を経て、酒母ができるまでにおよそ1か月ほどかかります。
味わいの特徴
自然の乳酸菌やさまざまな微生物が関わるため、味に「幅」「奥行き」が出やすいと言われます。
- コクと深みのある濃厚な味わい
- しっかりした酸と旨みがあり、骨太で押しの強いスッキリ感
- キレのいい酒質
- 「重奏感のある味」「ヨーグルトや乳酸飲料のようなニュアンスの酸」
嫁いだ当初は「酸味が強い」と感じましたが、今ではこの酸こそがカネナカの個性であり、料理を引き立てる力なのだと理解しています。
カネナカの主なラインナップと特徴
女将として、それぞれの個性を丁寧にご紹介させていただきます。
1. カネナカ きもと純米
生酛らしい力強い酸味と米の旨みをしっかり味わえる一本。
最低でも2〜3年熟成させてから製品として出していますので、キャラメルのような甘い後味を感じます。冷でも温でもバランスがよいですが、特にぬる燗(40〜45℃)では旨みがふくらみ、ふっと優しい甘みが現れます。
和食全般はもちろん、洋食ではチーズやトマトソース系にも相性抜群です。
私は熱めの55℃くらいにして、炙りベーコンやグラタンなどチーズの焦げ目と合わせるのが好きです。
主人は、寒い時期に熱々のおでんのだし汁でカネナカを割る「出汁割り」をおすすめしています。

2. カネナカ きもと純米 超辛口
その名の通り、シリーズの中で最もキレのあるタイプ。
スッと切れる酸と力強いボディが特徴で、食中酒として活躍します。冷やした状態で刺身や天ぷらと合わせるもよし、熱燗で料理の旨味を引き立てるもよし。
辛口好きの方にも満足していただける一杯です。
実は私、山形県出身なのですが、山形の秋の味覚「芋煮」とも相性が良いと感じています。牛肉とごぼうから出る出汁と、濃い目の醤油による味付けが、お酒の味わいを引き立てます。

3. カネナカ きもと純米大吟醸
じっくりと熟成させたことで生まれる、深みのある香りとまろやかな味わいが特徴。
現在商品として出しているものは9年の熟成を経たものです。
口に含むと、ほんのりとした酸が旨みを引き締め、柔らかく長い余韻を残します。
特別な日の食卓や、ワイングラスで香りを楽しむのもおすすめです。刺身や白身魚のグリル、和風ソースのステーキなどにもよく合います。私はローストビーフにグレービーソースを添えて、人肌くらいの温度で楽しむのが好きです。

日本酒ビギナーにおすすめの「味わい方ポイント」
「どう飲むか」で日本酒の印象は大きく変わります。
特にカネナカは、温度によって表情を変える”生きた酒”。
ここでは、初心者の方でも簡単に楽しめる3つのポイントをご紹介します。
1. 温度で発見!味の変化を比べてみましょう
冷や(10〜15℃)ではシャープでスッキリとした印象、常温(20℃前後)ではふくらみと旨みが増します。
さらに燗(40〜50℃)にすれば酸味がやわらぎ、まろやかな味わいに。
“同じ酒なのにまるで別物”という体験ができるのも、生酛造りならではです。
これは私も初めて体験したとき、本当に驚きました。
2. 和食だけじゃない!カネナカと料理のペアリング
カネナカの生酛シリーズは酸がしっかりしているため、油を使った料理やチーズにも好相性です。おつまみは温かいメニューがおすすめ。
- 刺身、煮魚、天ぷらなどの和食
- グラタン、ピザ、フライドチキンなどの洋食
- 中華の麻婆豆腐や餃子
料理が少し脂っこくても、たまにはジャンキーでも、負けない旨味がお酒にあります。どれもおいしく寄り添い、料理を引き立ててくれます。
3. “開けたて”から”数日後”まで味の変化を楽しむ
カネナカはしっかりとした骨格があるため、開栓後も味が崩れにくいのが特徴です。初日はフレッシュでピリッとした酸、翌日にはふくらみとコクが広がる――。
一度で飲み切らずに、2〜3日に分けて変化を楽しむのもおすすめです。
これは女将として、日々実感していることです。
ビギナーにこそ飲んでいただきたい理由
カネナカは決して”飲み手を選ぶ”日本酒ではありません。
生酛造りのしっかりとした骨格がありながら、飲み口は柔らかく、香りもやさしい。飲み慣れていなくても、「もう一杯飲みたい」と思わせる親しみやすさがあります。
また、銘柄を通じて「米のちから」「水の恵み」「人の技」が一体となる日本酒文化を体感できるのも魅力です。
地元の人々とつくり手のつながりが生んだ”日常に寄り添うお酒”――それがカネナカの本質だと、女将として感じています。
カネナカから、日本酒の世界へ
日本酒の魅力は、ラベルや銘柄の数だけ多彩です。
けれども、最初の一歩を踏み出すときに「飲みやすくて、味わい深い一本」があれば、そこから世界がどんどん広がっていきます。
生酛が育む酸の力強さ、米の甘み、そして時間とともに変わる味わい。
そのどれもが「日本酒っておもしろい」と感じさせてくれる体験になるはずです。
新しい年のはじまりや、ゆっくり過ごす夜に。
どうぞ”カネナカ”を片手に、日本酒という文化の奥深さを少しずつ味わってみてください。
中島屋酒造場 女将